第2回「鉄骨を本音で話す会

日 時 平成16年3月26日(金)
       14:00〜17:00 

場 所 茨城県健康科学センター 3階中会議室
      (水戸市笠原町)

出席者:建築設計者15名(文中S印)
    鉄骨加工者18名(文中F印)合計33名

   出席者名は別紙参照

 (文中Sは設計者、Fは加工者、敬称略)

司 会:斎藤(S.D.フレックス)
    奥津(オクツ)

 

S斎藤:JSCA茨城・鐵構組合の第1回本音の会開催を機に全国でも同様な交流会が行われています。先駆者として第2回目を充実させ、活発な本音トークを期待します。

F奥津:今回の主議題は「鉄骨の経済設計とは」です。作り手からの意見をどうぞ。

F山野(山野工業):経済設計とは重量を少なくすることと一般的に考えられているようですが、設計者の本音はどうか。

S清水(清水構造設計):概算では重量を中心に考え、加工方法は実施設計にて考慮している。

S斎藤:加工手間の掛かる物件と掛からない物件があると思うが、「トンいくら」の工事見積もりが多い。鉄工所はどのように考えるのか。

F田中(宮前鉄工):基本的には「トンいくら」の見積もりは出してない。ゼネコンとのやりとりの中でも加工を考えてネゴしている。

F奥津:加工の難易度−@についてもう少し。

S斎藤:経済設計とは広い範囲での設計主旨が含まれると思う。

F藤江(第一藤江鉄工):価格の決定は、材料費・工場加工費・現場工事費−Aで決定される。@の考慮は当然であるが、価格にはあまり反映されないのが実状である。

F奥津:量が価格か。

S石川(崇建築研究所):加工者は基本的に「トンいくら」の見積もりはやっていないように思える。

S斎藤:設計者はAの材料価格の情報をもっていない。加工については何が高くなる要素か。

F伊藤(つくし工業):やはり溶接が重要な要素になると思う。マンションで「逆梁」がよく用いられるが、コアを組むのに大変手間が掛かっている。通常コアの1.5倍程度の手間である。又、建方時に自立できない断面形状の場合は仮設材が必要となるが、仮設材はFAB負担となる。

S高橋(オック構造設計):仮設費用はFAB負担と図面に明示してある。スタッド打ちの柱脚でもベースプレートと突合せ溶接の指示などと過剰な設計も目に付く。突合せ溶接量を減らすことや、すみ肉溶接を多用すべきである。

S伊藤:20余年、SRCの建方用アンカーのベースプレートを部分溶け込み溶接に変更できないかと申し入れても、今まで変更を認められたのは2件のみである。

 

S清水:第1回目でも話した通り、検査打ち合わせに構造設計者が出席できないことが変更を認めない原因ではないか。構造設計者が監理出来ないことが問題である。

F奥津:FABの質疑書は構造設計者に届かないか。

S清水:質疑書は届くが、FAXにて返答して終わり。その後の事情は不詳である。

S斎藤:設計者の本音として、深い内容の質問をもらうと返答に困ることがある。しかし、不利益を被る側はG・Cや設計にしつこくアピールすべき。但し、その時に質疑    に関する資料や文献を提示すれば設計者にとっても勉強になる。FABも自分を守るために勉強すべきで、構造設計者を鍛えたらどうか。

S石川:それは設計者の甘え。設計者も勉強すべき。

S清水:今まで回答できない質疑があがってきたことはない。FABと直接話すべきであるが、間にワンクッションあるために話がスムーズに出来ない場合がある。

F奥津:苦しい言い訳に聞こえるが、我々ももっと勉強せねばならない。

    次に、「タブ」について話をどうぞ。

F野沢(東邦鉄工):「タブ」については、スティールタブの図面が多い。しかしAWの資格者が溶接すれば代替えタブ(セラミックタブ)でも良いとの回答が多い。AWの資格が必要条件である。

F上野(東関東EGS:非破壊検査):AW検定を受け代替えタブの検定を受けていれば工事監理者のOKが出やすいのでは。

F奥津:スティールタブを使用しないでセラミックタブを使うのか。

F好井(好井鐵工所):スティールタブは溶接長さが40〜50mm長くなる。又、タブの切断処理が煩雑でサンダー仕上げを要求される。セラミックタブを使えば切断処理が無く簡単である。

S斎藤:手元の資料内に代替えタブについての記述がある。UT検査で欠陥の出やすい部位や、UT検査以外の欠陥について注意すべき。

S高橋:FABから代替えタブの申し入れがあった場合、FABの慣れている作業で承認することにしている。

S石川:各社の工作基準にはタブについて記述していない場合が多い。設計者はタブまでこまかい監理はしない。欠陥のない製品を作っていただければ良いのでは。

F奥津:そうしてただければ有り難い。

F増山(増山鐵工):工作基準には載せています。

F上野:代替えタブについては溶接技量の問題がある。使用にあたっては注意が必要と思われる。

S斎藤:代替えタブを使うのは経済的な面からというのは理解した。鉄骨は溶接が重要な部位であるが、溶接の費用について教えていただきたい。すみ肉溶接と突合せ溶接ではどのくらい費用が違うのか。

F奥津:溶接の費用は溶接の作業性にも大きく左右される。

F増山:溶接部の断面積に比例する。又、UT対象溶接はNGの再溶接も必要だし、前作業も手間が掛かる。

S斎藤:宮前鉄工さんでは狭開先を研究されていると聞いているが。

 

F田中:ルートギャップ5mm開先角度25°にて溶接量が最大30%ダウンするとの試験結果がある。当社では建研N先生やM氏にも相談してこの工法をアピールしているが、今のところ進展はない。

S村上(村上建築事務所):狭開先については、この方法が一般的に認められるよう現在努力中です。

F奥津:狭開先には経済性がある。

S村上:基準は誰が施工しても要求された性能を満たすように決めなければならないか ら、大枠を決めざるを得ない。したがって、基準は全ての人が守らなければならないということではない。ディテールは決めたものに対して異議がなければ基準になってしまう。最近AWでもセラミックタブについての試験をやっているが、欠陥をみるとセラミックタブ特有の欠陥が目に付く。UTでは発見されない欠陥        がたくさんある。フランジの両端に合格欠陥が多い。AW委員会でも両端の欠陥を発見するような方法がとられている。スティールタブの切断は大変費用がかかるので、エンドタブはない方が良いと思うが、セラミックタブを使う場合は技量に裏付けされた方法を採るべき。如何に工事監理者に認めてもらうか、周辺の環        境も含めた努力が必要。

S高橋:FABではノンスカーラップ加工を採用しているか。

F藤江:普通は改良スカーラップ工法ですが、指示されればノンスカーラップ工法で製作します。基本的にはスカーラップを採ります。

F野沢:当社は90%程度ノンスカーラップ工法です。

S斎藤:コラム-Hの建物でもか。

F野沢:そうです。

S高橋:設計時、スカーラップの欠損をみなければ多少断面が上がる。

F藤江:スカーラップについては、鋼材店の一次加工で加工し、製品として搬入しているのが現状です。加工機械を持つか否かでスカーラップ加工が分かれると思う。当社ではスカーラップ工法が慣れている。

F勝野(勝野製作所):当社はRグレードですが、ノンスカーラップ工法を指示されたことはない。

F奥津:加工する側で慣れている方法を探っているように思う。

S石川:経済性からみればどうか。

F野沢:加工費はあまり変わらないと思う。

F奥津:人が作業するものなので、どうしても慣れている加工が経済的との思いがある。設計者からノンスカーラップ加工の経験があるかどうかの問いも多い。

S石川:加工経験がない製作工場にノンスカーラップ加工を求めるのは危険との判断から設計者は確認している。当社は未経験のFABに求めることはしないようにしている。

S村上:ノンスカーラップ工法は、各ゼネコンのデータでスカーラップ工法より力学的に性能がよいとの認識がある。コストについて、以前北陸のI工業にてノンスカーラップを指導し採用してもらったが、その後I工業では他の工事でもノンスカーラップを提案して採用していた。経済的だと推察される。ノンスカーラップの裏当て金が2枚に分かれることはR加工の裏当て金を用意したり、45°にカットす       ればコスト的にはあまり問題ないように思う。改良スカーラップが提案されているが、あまり力学的に良い形状とは思えない。スカーラップを採る為に梁フランジの裏側を削っている場合も見受けられる。総合的に考えて、スカーラップを設けて溶接の不連続部分を作るよりノンスカーラップの方が力学的に優れるので、出来るだけノンスカーラップを採用すべき。

F奥津:ノンスカーラップ工法の良さはよくわかりましたが、ここにいるFABの方々は困ったなと思う人も多いのでは…。

F三代(大三工業):スカーラップを設ける意味についてもう少し教えてください。

S村上:スカーラップはフランジ溶接を連続させるのに設けたものと思われる。ノンスカで裏当て金を切るとフィレット部の溶接に問題が生じると思われたが、不溶着部を故意に作って行った実験によりあまり問題がないとの結果を得ている。そこに生じる欠陥よりスカーラップを設けた方が力学的強度が低下する実験結果が提示されている。フィレット部に生ずる欠陥はフランジの中央である。端部の欠陥に        較べれば許容できる範囲と考えられる。

F三代:どうして設計者は我々FABにノンスカーラップ工法を推奨しないのか。

S斎藤:ノンスカーラップ工法が力学的に優れていることは学会の中でも確立されている。現在普及している改良スカーラップは、ノンスカーラップに移る過渡的な工法と思われたがずっと使われているし、ノンスカーラップに移行するという強い動きは今のところ無い。

F三代:ノンスカーラップ工法で部材の耐力が上がるのであれば、そのように設計するのか。

S斎藤:先程の高橋氏の話にもあったように、そのように設計することは出来る。但し、どのように考えて設計するかは構造設計者の判断になると思う。

F田中:今後当社でもノンスカーラップを考えているが、「裏当て金を45°に加工し、フィレット部の欠陥…」の意見は大いに参考になった。改良スカーラップは工作機械メーカーの普及が早かったように思う。

S村上:スカーラップカッターには以前から色々な種類があった。ノンスカ工法によるフィレット部の欠陥は、善し悪しを自分で納得する方法を見つけだし、資料や実験結果を参考にして設計者を説得すべき。

                 (休憩)

F中西(宮前鉄工):SRCの建物を設計する場合、どのような点に留意して進めるのか。

S森田(基設計):設計は構造のみ考えて進めるわけではない。建物の仕上げをどのグレードにすべきか等を総合的に考える。経済設計とは、加工しやすい設計にすることが全てではないし、構造的に柱を崩壊させない梁先行降伏型の設計にする必要があることなどを考慮して設計する。

S鈴木(日本アドバンストテクノロジー):最近鉄骨造建物の工事監理をしているが、床がALC版貼りで床ブレースに丸鋼を使用している。経済設計という点からみるとそのように考えられるのだろうが、丸鋼の張力が期待通りの耐力を持っているかどうか疑問である。建物は総合的に判断して経済性を考えるべき。

S高橋優(高橋建築構造設計室):設計事務所との打ち合わせで、建物の構造計画に構造設計者が参加できない場合が多い。経済設計を計画できない場合もある。

F山野:設計事務所とFABの間に具体的なキャッチボールが少ない。提案事項の返答が遅く納期限とのにらみ合いとなり、ほとんど提案が認められない。設計者とFABとの諸問題を解決するような場を作って欲しい。

S斎藤:設計者に対するFABからの提案は意匠設計者が判断する局面が多い。提案する側は言葉だけでなく関係資料を添付すべき。現在、過剰な加工を要求する図面を修正すべきとの教示書籍はたくさんある。そのような文献を日頃からストックし、説得材料として利用すべき。粘り強く交渉して過剰設計を止めさすのは作り手側が努力して下さい。

F増山:提案交渉は、ときどき図面の食い違いなどを絡めての力関係になる。

S斎藤:手元の資料に、工作改善加工図の抜粋を添付してある。是非このような資料を活用して不利益を被る側は声を大にして自分の身を守って下さい。

S村上:各種の講習会を通して、設計者は鉄骨のディテールをよく理解していないことに気が付いた。

S斎藤:構造設計者は全てのディテールを把握しているわけではない。ですから作り手側の意見はおおいに言うべき。同じ目的を持つ関係者が少しでも良くなるようにとの努力は相手も理解してくれる可能性が大きい。設計者に都合の良い言葉になるが、一番ものつくりを知る作り手がもっと声を大きく上げるべき。

F藤江:構造設計者とFABとの間でお互いの問題点を解決するような委員会を作り、話し合いする場を作ったらどうか。

F山野:FABには虫の良い話であるが、そのような場を是非作って欲しい。その中で色々な資料を揃えたり勉強させていただけないか。

S斎藤:前向きで重い提案だが…。しかし、そのような話し合いを通して我々設計者も鍛えられると思う。JSCA茨城クラブとして前向きに検討したい。

S高橋:他県でもそのような会合があると聞いている。JSCA茨城としても考えるべきである。通しダイヤフラムの厚さについては3サイズアップで施工するとの見解も聞いている。その必要性はどうか。

S村上:通しダイヤフラムのサイズUPについては基準書通りにアップする必要はない。コアをロボット溶接していないFABではサイズUPは不要。FABの判断で決めればよい。

F伊藤:ダイヤフラムの厚さは2サイズUPにて加工している。BH材は誤差がないがロールH材では許容誤差があるためそのようにしている。

S高橋優:通しダイヤフラムの厚さは告示で決められているか。

S村上:告示ではダイヤフラム内に納めるということ。

S斎藤:手元の資料に告示1464号の内容が明記されている。設計時に注意すべき事項もあるので参照して下さい。ここでは通しダイヤフラムの厚さは2サイズ以上UPが推奨されてる。補修方法も掲載されているが、構造計算により安全が確かめられた場合は補修しなくても良い…となっている。詳しい内容は「補修マニュアル」を参照。

F上野:補修方法の選定や構造計算方法のデータソフトを作成中です。完成したら皆さんに提供します。

F寺門(事務局):告示1464号について、建研の向井先生にお聞きします。

向井(建築研究所):告示内容は全てを網羅してはいない。皆さんでよく検討してもらいたい。又、仕口部はフランジのみ考慮してウェブの力はあまり考慮していないので、通しダイヤフラムはもっと厚くしなければならないと思う。後日その辺りを考慮した設計法や内ダイヤフラムの設計法も提示されると思う。

S斎藤:先程のFAB側からの提案要望は 大切な事由を含んでいると思われる。是非かたちとして立ち上げたく思う。ここで設計者からのお願いがある。設計者は溶接の実態を知らない。溶接を勉強するような機会を作って欲しい。又、設計者は入手しずらい材料や価格など、鋼材に関する情報を持っていない。鐵構組合のホームページにてその辺りを掲示してもらえば、設計者はいつでも情報を得ることが出        来る。

F田中:溶接の勉強は、私の工場でよければ協力する。

F奥津:宮前鉄工に限らず他のFABも協力願います。

F藤江:鋼材に関する情報掲示は前向きに検討する。

S中村(中村設計事務所):ひとつ聞きたい。柱の「絞り」は何層程度から絞っても経済性が確保できるか。又、XY方向梁成の違いがある場合、どの程度の段差で梁端部ハンチか内ダイヤフラムの判断をすべきか、概略のオーダーを教えてもらえないか。

F奥津:柱の絞りは2階建て程度では避けてほしい。梁のハンチは1サイズの違い程度かと思う。今日はもう少しその辺りの話を進めたかったが、時間が押しているので次回に持ち越します。最後に、東京から参加された村井さん。

S村井(清水建設):我々ゼネコンは、顧客に対し品質の良い品物をバランスの良い値段で提供するのが目的。私たちの設計では、最初の段階では勿論設計サイドのメンバーで進めるが、FAB決定後はFABと相談して作りやすい図面に変更している。性能からみると、ノンスカーラップは積極的に使用している。設計図の大切さは設計者が認識せねばならない。

F寺門:次回は設計者の皆さんと溶接しながらの勉強にしたいと思います。(笑い) 

                 (終了)